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AI時代の金融サービスを形作る重要な議論

はじめに

金融サービスの未来を決定づけるのは、テクノロジーそのものではなく、今後数年間でリーダーたちが下す戦略上の選択です。

人工知能 (AI) は、業界のエコノミクスを根本から組み替え、コスト構造を再構築し、顧客との関わり方を再定義し、かつてないスピードで金融システム全体の価値配分を組み替える可能性を秘めています。同時に、ステーブルコイン、規制の再編、地政学的な分断といった動向が、金融機関自体の資金調達、顧客へのアプローチ、そして資本配分のあり方に関する長年の前提を揺るがしています。

金融業界は今、強固な立場に立って転換点を迎えています。業績は堅実で、バリュエーションは回復し、資本水準も高い状態にあります。しかし、この安定の裏には深刻な脆弱性が隠されています。多くの金融機関が構造的変化に対して漸進的な戦略でしか対応せず、本来はオペレーティングモデルやビジネスモデルを根本から再設計するための触媒として活用すべき AI を、単なる生産性向上ツールとしてしか扱っていないのです。

中心となる論点は、AI が金融サービスを変革するかどうかではありません。変革は必ず起こります。真の問いは、「誰が顧客との関係を掌握するのか」、「誰が顧客の代理として信頼されるのか」、そして「自動化が進む金融システムにおいて、誰が経済的価値を手に入れるのか」という点にあります。

世界各国の金融機関を支援する中で、当社は、野心と準備態勢の間に広がる乖離を実感しています。AI への投資は加速していますが、組織モデルやガバナンス、そして顧客戦略はそのスピードに追いついていません。一方で、新たなテクノロジーや仲介者が銀行と顧客の間に割って入り、差別化を損なわせ、収益を圧迫する脅威になっています。しかしながら、金融機関には依然として、強力でありながら十分に活用されていない優位性があります。それは「信頼」です。顧客は銀行が、資産やデータを保護し、自らの意図を汲み取り、問題が発生した際には責任ある対応をしてくれると信頼しています。AI システムが高速ではあるものの不完全な現代において、「信頼」は極めて重要な競争優位性となり得ますが、そのためにはそれを意図的に活用する必要があります。

本レポートでは、業界の行く末を左右する 5 つの論点を掘り下げます。具体的には、AI が銀行運営を担うようになるのか、ステーブルコインは資金調達や決済に破壊的変化をもたらすのか、AI エージェントは銀行と顧客を分断するのか、「信頼」を永続的な優位性に転換できるのか、そして AI 投資サイクルが反転したときに何が起こるのか、という点です。決断を下すための時間は限られています。これらの問いに真摯に向き合い、AI を前提とした未来に向けてビジネスモデルを再設計する金融機関は、自らの存在意義を高め、収益を強化できるでしょう。一方で、それができない金融機関は、現在の強みが一時的なものに過ぎなかったこと、そして未来が予想以上に早く到来したという現実に直面することになるでしょう。

Dylan Walshパートナー、バンキング・金融サービス・インサイト・グループ責任者

Anders Nemethマネージング・パートナー、グローバルバンキング・金融サービス

著者: Ashik Ardeshna, Michael Azimi, Ben Britz, Rick Chavez, Tim Colyer, Joseph Cox, Hannah Curtis, Nick Dykstra, Jason Ekberg, Doug Elliott, Elie Farah, Josh Gilbert, Jad Haddad, Michael Ho, Rob Hunter, Ugur Koyluoglu, Andy Kuritzkes, Amy Lasater-Wille, Seo Young Lee, Lauren Lyons, Anders Nemeth, Ted Moynihan, Adam Poitras, Jesse Price, Ben Reeve, Chris Rigby, Polly Rogers, Mariya Rosberg, Til Schuermann, Ian Shipley, Emma Stall, Huw van Steenis, Bashir Todai, Mathieu Vasseux, Dylan Walsh, Laura Watkin.

専門家へのコンタクト

AI 時代の金融サービスを形作る 5 つの重要な論点についてさらに詳しくお知りになりたい場合、あるいは貴組織がどう対応できるかを検討される場合は、日本代表の香月史秋までお問い合わせください。