人工知能 (AI) エージェントはまもなく、消費者と多くの金融商品・サービスを結ぶ主要なインターフェースとなり、顧客との関係において銀行を背後に追いやる可能性があります。このような結果は、もはや仮説ではありません。Adobe Analyticsによると、直近 6 か月間に米国の銀行サイトへの AI 経由のトラフィックは 1,200% 増加しました。
こうした動向の一部がリアルタイムで進行しているクレジットカード事業は、銀行にとっての脅威がいかに手ごわいものであるかを物語っています。当社の最近の分析では、2030 年までにエージェント型 AIが主要な顧客獲得チャネルになると予測されています。これにより、大規模言語モデル (LLM) は、現在米国の消費者向け銀行手数料プールの 10% 以上を占める分野の主要プレイヤーへと変貌するでしょう。
より広い視点で見れば、インターネットへの入り口が LLM に移行することは、消費者向け銀行業務、さらにはそれ以外の分野のあり方を決定的に変える可能性があります。個々の銀行がどう対応するかによって、AI 時代における競争上の地位が決まることになるでしょう。
エージェント型 AI が Apple App Store 以来の最も重要な新チャネルなのはなぜか
エージェント型 AI は、人間による最小限の入力で、システムをまたがる多段階のワークフローを計画、適応、調整できる「適応型問題解決ツール」 です。
これまでのインターネット体験は、一連の逐次的かつ双方向のやり取りとして定義できます。ユーザーは基本的に、ウェブサイトやアプリを一度に一つずつ切り替えながら操作します。エージェント型 AI は、裏側の煩雑な作業の大部分を瞬時に処理することで、能力の段階的向上をもたらします。「2 月に家族でスキー旅行に行く予約をして」というたった一つの指示 (プロンプト) から、あなたの好みを学習し、旅行全体を予約し、計画を自動的に更新してくれる旅行コンシェルジュを想像してみてください。
エージェント型 AI は、単に効率を向上させるための新技術ではありません。それは、顧客が検索、発見、学習、そして購入するプロセスそのものが異なる、全く新しいチャネルなのです。 現在はまだ実験段階にありますが、消費者の体験を激変させる巨大な潜在力を秘めています。
エージェント型 AI は銀行業務にどのような影響を与えるか
エージェント型 AI は、顧客獲得競争の根本を変えます。 25 年以上にわたり、デジタル製品発見プロセスにおいては検索エンジン最適化 (SEO) が主導権を握ってきました。しかし、AI エージェントがインターネットへの入り口になるにつれ、エージェント最適化、あるいは生成エンジン最適化 (AEO または GEO) と呼ばれる新たな分野が台頭しつつあります。
従来の SEO では、検索エンジンは自社の製品やサービスが上位表示されるように対価を支払った企業の「スポンサー投稿」を表示します。このモデルは、AI エージェントがユーザーと対話し、ユーザーの好みを考慮し、直接的な「回答」を提供した上で、多段階のタスクを完了させるという世界に取って代わられようとしています。
当社の分析によると、クレジットカード取得は以前からデジタル市場に移行してきており、過去 5 年間は年平均成長率 10% で増加しています。AI アシスタントとのチャットは、顧客が求める製品を見つける手段として非常に適しており、現在、ChatGPT、Gemini、Perplexity などが主導する形で大規模に進展しています。これは、顧客による製品評価プロセスが永続的に変化しつつあることを示しており、比較検討を軸としたデジタルジャーニーの台頭に後押しされています。
ここで、AI アシスタントがデジタル市場チャネルの新規成長分をすべて取り込み、同チャネルが引き続き年平均 10% で成長すると仮定しましょう。たとえクレジットカードの新規成約件数全体が横ばいだったとしても、市場は劇的な再編を経験することになります。
エージェント型 AI はどのように銀行の戦略と顧客獲得を再形成しているか
エージェント型AI影響は甚大です。この新たなエージェント型 AI チャネルへ積極的に参入する銀行はシェアを奪う側に回り、そうでない銀行はシェアを失う側になるでしょう。当社は、今後数年間のうちに銀行が 3 つの明確に区別されたグループに分かれる形で進んでいくと考えています。
グループ 1: 早期参入を受け入れる銀行
Open AI は 2025 年 10 月、ChatGPT 向けのアプリを発表しました。初期ローンチには、Expedia、Booking.com、Tripadvisor、Canva、Coursera、Zillow、Spotify、Figma、Peloton の 9 社がパートナーとして名を連ねました。 それ以降、少なくとも 21 以上のブランドがアプリをリリースしており、近日中には 300 以上のアプリが登場すると噂されています。
こうしたチャネルへの参入を支持する銀行は、これらのアプリを活用して口座開設をサポートすることで、チャット経由の紹介をそのまま新規顧客獲得につなげることができます。それと並行して、顧客セグメント、ユースケース、製品、パートナーのすべてにおいてこの新チャネルを活用するための戦略を構築することが可能です。このような点を熟慮して参入戦略を策定する中で、銀行はアプリ体験に「何を含め、何を含めないか」を決定します。たとえば、アプリでは口座開設のみをサポートし、日常的なやり取りについては従来のデジタルチャネルへ顧客を誘導するといった構成が考えられます。
銀行にとっての好機は、1990 年代のインターネットブラウザの場合と同様に、世界を再形成し得る新興チャネルの早期参入者となることにあります。
グループ 2: マーケットプレイス経由で参入する銀行
Intuit のCredit Karma のようなデジタル市場は、すでに ChatGPT のアプリストア内に存在しています。Intuitは、実質的に自社のマーケットプレイスをエージェント型チャネルに複製しており、クレジットカードやローンなどの潜在顧客を獲得して顧客とサプライヤー (銀行) をマッチングさせています。
一部の銀行にとっては、Credit Karmaのようなマーケットプレイスを利用することが、市場への最短経路になるかもしれません。マーケットプレイスや ChatGPT が、チャネルの提供やアプリへのユーザー誘導の対価として金銭的な報酬を求めるようになるのはほぼ確実ですが、これは既存のマーケティング費用を別のチャネルに振り向けているだけであり、顧客獲得コストとしての本質は変わらないという見方もできます。
しかし、間接的な参入はコントロールの喪失につながりかねません。銀行は当然ながら、顧客から自らがどのように見えるかに強い誇りを持っています。 (また、銀行には管理すべき重大な規制上の義務もあります。) LLM のインターフェースに埋もれた、顔の見えないチャットボットとして登場することは、魅力に欠けると感じられるかもしれません。たとえばクレジットカードでは、 Credit Karmaが顧客と直接的な関係を築き、チャットでのやり取りに基づいて顧客に提示される内容を決定します。銀行の商品は表示されますが、マーケティング、ブランディング、そして顧客体験に関する決定権は、マーケットプレイス側に集約されます。
グループ 3: 直接的な参入を回避する銀行
エージェント型 AI に参入すべきか、あるいはどのように参入すべきかを決定する際には、検討すべき現実的なトレードオフが存在します。「もしもこのチャネルが普及しなかったら」、「顧客がアプリを信頼しなかったり、LLM による推奨を信じなかったら」、「顧客獲得コストがかえって高くなったら」、「不正な口座開設が急増したら」どうするのかということです。
銀行には確かに、既存のチャネルを強化し、エージェント型 AI がどのように展開し、消費者の期待がどのように変化するのか (あるいは変化しないのか) を見守るという選択肢もあります。しかし、参入を見送るという判断は、他のチャネルでの顧客エンゲージメントの強化や、LLM から流入するトラフィックの監視といった取り組みを伴う「意図的な選択」であるべきです。
銀行業務におけるエージェント型 AI の未来は、もう始まっている
個々の銀行がどの道を選ぶにせよ、このダイナミクスは急速に進展すると予想されます。エージェント型 AI がクレジットカードをはじめとする広範な分野で主要な顧客獲得チャネルとなるにつれ、たとえ正当な理由があったとしても、参入しないことを選択した銀行は、最終的に敗者となる可能性があります。
本記事は、AI 時代における金融サービスの未来を形づくる論点を浮き彫りにした、当社のレポート「既知の未知 (Known Unknowns) 」の一部です。